八楠加茂神社(左口神社)

焼津市八楠字押洗360

八楠加茂神社由緒書

概要

八楠加茂神社は、山城国上賀茂神社から、郷主八楠大膳の氏神として、大化二年(646)に勧請したとされる。
駿河国神明帳の益頭郡従五位上「八楠地祇」は当社とされる。

八楠加茂神社

また、総国風土記にある益頭郡の「箭葛」は八楠であるといい、
「箭葛 柳田神社 大化二年丙午二月所祭雙栗神也」も当社を指すといわれる。
柳田神社の名は、八楠がかつて「柳本」と称したとされることと関連があるか。

八楠加茂神社拝殿

一方で、八楠は南北朝期から見える地名である。
当社旧地の松臥にあった八本の大楠に由来するともされるが、
駿河志料では、益頭と同様の焼津地名の一つではないかとしている。

八楠加茂神社扁額

かつては流鏑馬が行われたと伝わるほか、氏子の右目が細いという古社特有の伝承がある。

八楠加茂神社拝殿

境内社に八坂神社、白鬚神社、天満宮、天白社、八幡宮、座王神社、蔵王権現、左口神社があり、長屋に寄せられている。

境内社殿
境内社殿

(「焼津町誌」、「焼津市誌」、「焼津市史 民俗編」、「静岡県志太郡誌」、「志太地区神社誌」)

踏査結果・考察

八楠の左口神社は江戸期の地誌に記載されていない。
大正二年の焼津町誌には記されているが、祭神、由緒共に不詳とされている。

白鬚神社、天満宮、天白社、八幡宮
白鬚神社、天満宮、天白社、八幡宮

一方で、他の境内社については駿河記や駿河志料に記載がある。
確信はないが、県内各地で天白社とシャグジがセットで祀られていることを踏まえると、
左口神社は天白社と共に祀られていた可能性があると考える。

座王神社、左口社、蔵王権現、八坂神社
座王神社、左口神社、蔵王権現、八坂神社

さて、当社に関しては、境内社の左口神社以上に、総国風土記における「雙栗神」を祭ったという記載が興味深い。
明らかなシャグジである三保佐久神社増神明社が、共に雙栗神社(佐栗神社)と称していた経緯があり、当社における関連性も想起せずにはいられない。

そもそも、現在、雙栗神社という名の神社は、京都府久世郡鎮座の本社及び同綴喜郡の雙栗天神社以外、全国的にも一見して見当たらず、
シャグジとの音韻の類似以外に積極的な勧請理由が思い浮かばない。

総国風土記は出自がはっきりせず、一般に偽書とされるなど、どこまで信頼できるのか判然としない。
しかし、もし事実に基づいているのならば、益頭郡の信仰の古層を垣間見ることができる史料なのかもしれない。

2022/12/10踏査

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